浸食崖において観察される過去4000年間の巨大津波痕跡群
ガッカラ浜の津波痕跡群
北海道東部太平洋沿岸域は,七山・重野(1998)による報告以来,完新世に堆積した泥炭層および湖沼堆積物中の津波堆積物に関する研究が活発に行われてきている.これによって,十勝海岸〜霧多布湿原間の巨大津波痕跡層序は概ね確立されたと考えて良い.しかし,根室海岸地域においては,未だ不確定な部分が多い.
根室市西部のガッカラ浜地域には,東西約180m,南北約200mの小規模な沿岸湿原が存在し,礫浜には高さ約1.6m程度の海蝕崖が連続して存在する.
本調査地域では,最も厚いところで約2.2mの泥炭層が発達する.この浸食露頭では,泥炭層中に6層の火山灰と12層の砂層を確認することができている.火山灰は主にシルト〜細礫サイズで,肉眼観察と周辺地域の既存火山灰層序研究から, Ta-a(1739年樽前山起源),Ko-c2(1694年駒ヶ岳起源),Ma-b(10世紀摩周起源), B-Tm(10世紀白頭山起源), Ta-c2(ca. 2.5-2.7 ka樽前山起源),Ma-d(ca. 3.6-3.8 ka摩周起源)等と判明した.
12層の砂層(NS1-12)は主に淘汰の良い細粒砂からなり,各層厚は数cmから数10cmに達する.砂層の多くは,明瞭な級化構造や浸食基底を持ち,基底部に径 1.0〜1.5cmの亜円〜亜角礫を含むものもある.特に,Ko-c2直下に位置する17世紀に発生した砂層中には,最大径35cmの亜円礫が存在する.また,標高約11.2mの古砂丘上の表層下5〜10cmには,Ko-c2細礫が散っており,この砂層と同時期に堆積したと推定され,津波高は11mを遙かに越えていたと容易に判断される.
テフラから得られた年代値を用いて過去4000年間のイベント砂層の再来間隔を概算した結果,265-378年が得られた.これらのイベント堆積物の総数は,十勝沖+根室沖連動型地震に伴う巨大津波によってもたらされたと考えられている400-500年間隔(Nanayama et al., 2003)を有意に上回り,この場合,根室側には別の波源(南千島側)が存在した可能性が示唆される(Nanayama et al., 2008).
所在地
根室市
参考文献
Nanayama, F., Satake, K., Furukawa, R., Shimokawa, K., Shigeno, K., Atwater, B.F., August 2003, Unusually large earthquakes inferred from tsunami deposits along the Kuril Trench. Nature, 424, 660 – 663.
Nanayama, F., Inokuma, S., Furukawa, R., Shigeno, K., Kitazawa, T. and Nakagawa, M., 2008, Stratigraphy of large tsunami traces in Nemuro coastal area along the Kuril subduction zone. In Wallendorf, L. et al. ed., Solutions to Coastal Disasters 2008 tsunamis (Proceedings of sessions of the conference), Published by the American Society of Civil Engineers, ISBN 978-0-7844-0978-7, 224-234.
七山 太・重野聖之,1998年12月,北海道東部,千島海溝沿岸地域における歴史津波堆積物−研究序説−.月刊海洋号外,no. 15,177-182.
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